泉基樹『精神科医がうつ病になった』読了.

 「うつ」と言われた多くの人たちと同様,私もネットで「うつ病」に関する書籍・記述を検索した.まずは定番(?)の細川貂々『ツレがうつになりまして。』シリーズ.一般に「うつ」を広めた作品だと思う.映画にもなっており,主演の堺雅人のファンであるワイフがDVDを買った.

 原作のコミックエッセイはコミックなだけあって読みやすく,さらっと読めたが,もう少し詳細な体験談を読んでみたいと思い,泉基樹『精神科医がうつ病になった』に行き着いた.

 

 高校時代の親友を自殺で亡くした著者が,精神科医になることで「うつ病」に復讐すると意気込むが,医師生活4年目に自身もうつ病となってしまう.その後紆余曲折を経て,看護師でクリスチャンの彼女の愛の力などによって復活するまでのエピソードを,若干夢見がちな小説調に仕上げてある作品である.ついでに言うと,著者とその親友は大の尾崎豊ファンでちょっと気持ち悪い.

 でもね,これは「うつ病体験記」としてはあまり参考にならないと思う.挫折からの復活劇として読む分には楽しめるんだろうけどね.

 私が医者になった理由を思い返すと,著者のように「誰かのため」というのは殆どない.「自分が苦しいときに,誰も助けてくれなかった」から,同じ「復讐」でも社会・両親に対する復讐のために医者になったのだと思う.もちろん患者さんが良くなってくれれば嬉しいし,良くしてあげたいと思う.でもそのために人生を投げ打てるかと言われれば,ノーである.自分と家族,親しい者が最優先だ.赤の他人のためには死ねない.というか,他人のために死ななければならない状況は異常だ.

 著者が当初,彼女が「クリスチャン」であることに若干否定的であったのは共感できた.遠藤周作『私にとって神とは』を読んだ後は,キリスト教,あるいは宗教について,「働きである」という考え方ができるようになったが,それでもやはり,考えることを放棄していると感じてしまう.祈りは届かないし,救いは現れない.しかし彼女は自ら手を差し伸べた.神関係ないじゃん.

 

 あくまで読み物として,「若い精神科医が悩みもがく様を描いた小説」としてなら良いが,うつ病の闘病記とはちょっと違うと思う.そういう意味では東藤泰宏『ゆううつ部!』がちょっと気になっている.と思ったら,webで読めるのか.