はじめてステった

 昨日、初めて受け持ち患者がステルベンしました。外科回ったんでしょーとお思いの方もいらっしゃるでしょうが、何しろうちの病院は超小せえとこなので、大病院のようなスタッフの多いところでしかできないようなオペはあんまりできないので、基本的にみんな術前よりは良くなるんです。翻って今ローテート中の内科は、超高齢者が多く、病棟ではしょっちゅう「ステった」ちゅう話を聞いていました。

 が、実際自分が毎日足を運んでいた患者が亡くなるのは、全然話が違いました。いつも通り病棟業務やってたら、看護婦さんからコールが来たのね。「先生、ヒレさん(仮名)の呼吸が止まっています、レートも下がっています」こきゅうがとまっています、れーともさがっています。え、だって、今朝だってしゃべったし、酸素マスクのゴムで耳に褥創できそうだからバンソコ貼ってあげたり(無力)したんだけどなあ?で、途中で見かけた上級医に声かけつつ走っていったら、ヒレさん、呼吸止まってんの。明日ご家族と今後の治療方針の確認する予定だったんだけどなあ?いや、まあ、もともと結構ギリギリの人だったんだけど、いつステってもおかしくない感じではあったんだけど。でも看護婦さんは10分前まで話してたって。

 そんな状態の人だったから、ベテランの看護婦さんたちも上級医も全然慌ててないのね。上級医は「前回は蘇生したのに、今回はしないというわけにはいかない。家族との確認も取れていないからな」つって、明らかにどうみても戻ってこないヒレさんに、俺が挿管、呼吸器つけて胸骨圧迫開始。俺無力だから、あとはヒレさんの胸押すくらいしかできないの。一生懸命押したの。押してる間は橈骨動脈触れるんだけど、押すのやめると、聴診で心音聞こえないの。だめじゃん。

 家族にやっと連絡が取れたから、娘さんが到着するまでみんなで胸骨圧迫。ヒレさん、もう瞳孔開いてるよ、6mmもあるよ。あ、娘さん来た。「おじいちゃん、おじいちゃん。」この間簡単なムンテラしてたし、介護職の方だそうで、割と冷静でした。そのうち息子さんも到着。肋骨折れちゃうかもしれないし、(実際はもう亡くなってるけど)苦しいだけだからということで、圧迫終了。心電図の波形がフラットになるまでみんなで見守ってました。ドアの近くには、リハビリを担当してもらっていたPTさんが来ていて、泣いてました。息子さんはヒレさんの腕に触れて、「まだ温かい…」って言って泣いてました。

 しばらく家族とヒレさんだけにしている間に、「仕事はたくさんあるぞ」と言われ、初めて死亡診断書を書きました。こんなん書いたの法医学の試験以来だ。ZARDに似てないけどZARDと(心の中で)呼んでいる看護婦さんに、「私も新人の頃は泣いちゃったりしてましたよ」と慰められ(いや、俺泣いてないよ)ながら書きあげて、カルテにもごちゃごちゃ記載しました。

 ご遺体を迎えに来る業者?がいるそうで、その到着まで他の仕事しつつ適当に待機。IVHが入っていたのを抜きに、もう一度ヒレさんのところへ行ったら、なんだか小奇麗にされていました。死に化粧ってやつか。2年前に死んだ元カノの死に顔を思い出しました。人は簡単に死ぬんだなあ。俺の4倍近く生きてきたヒレさんの亡骸を撫でながら、なんでか「ヒレさん、」って声かけました。この人の人生ってなんだったんだろうな、とか、元カノの人生ってなんだったんだろうな、もうちょっと楽しい思いをさせてあげられたんじゃないかな、とか、偉そうなことをいろいろ考えてました。横で看護婦のZARDさんが「ヒレさん頑張ったねえ、苦しかったねえ、おつかれさま」って優しく声かけてました。涙がちょっとこぼれました。でも誰にもバレてないはず。

 ヒレさん、もっとベテランの専門医に当たれば良かったのにね、ごめんなさい。